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学長 田中優子

Yuko Tanaka

学長からのメッセージ

無数の扉が待っています このたび学長に就任しました田中優子です。学長就任は、松岡正剛校長の願いでした。少しでも校長を支え、伴走しながらイシス編集学校をより活性化していこうと、学長就任をお引き受けしました。

しかしその矢先、校長は帰らぬ人となりました。私は支えるべき伴走者を失いました。とても辛い日々です。

しかし悲しんではいられないのです。校長が25年前に既に危機感を持ってISIS編集学校を立ち上げたのは、正しい判断でした。今や日本は「本を読めない人」であふれかえり、政治も経済も教育も落ち込み続けています。自分の都合の良い情報だけ集めても、「知識」を得た自己満足はあるでしょうが、知性にはならないのです。知性とは何か。そのことが分からない社会になってしまいました。

今こそイシス編集学校が必要なのです。松岡校長が約25年に渡って創り上げてきてくれた編集学校の学びの方法は、編集能力と表現力の両方で、知性を鍛えます。知性を鍛える方法は、これからの社会資本になるでしょう。いや、そうしていかねばなりません。

日本では学校教育制度が整っています。しかし文部科学省が定めている学校制度は、異なる個人を、十把一絡げにして同じ方向に「揃える」ことを目的にしています。その方が企業の手足となり、軍事にも便利だからです。私たちはそれが「当たり前」で、そこで成績を上げた方が有利だ、と思ってしまっています。変えることはできない、と思わされています。

しかしこの25年に迫る時間の中で、松岡正剛校長は、別の道を開拓しました。国の教育制度をいきなり変えることはできなくとも、別の道があるのです。入ってくる無数の情報を私たちは脳の中で日夜編集しています。そのもともと持っている能力は、意識的に取り出して様々な観点から眺め、能動的に働きかけることで、多様かつ深く、力強くなります。それを自分の言葉として紡ぎ出すことによって、自らの知性と思想になります。

本は、世界中に散らばっている無数の他者です。古代から現代まで生きていた無数の死者と生者です。あまりにも数が多いので、片端から読めばよいわけではありません。どのような方針で読むのか、読んだものを自分の中でどう消化して言語化するのか、それを導いてくれる人が必要です。皆さんは指導者を得ました。自ら指導者になる道も用意されています。

さらに、1850冊で終了した、松岡校長の「千夜千冊」があります。これらは、1850の扉です。皆さんはいつでも、扉を開けて入っていくことができます。入ってみると、さらにその向こうに開いていく扉があることに気づくでしょう。

イシス編集学校の「編集」とは、宗教でもなければイデオロギーでもありません。皆さんひとりひとりの能力の扉を開ける「方法」なのです。その方法を身につければ、社会がしかけてくるいかなる罠にも、巻き込まれません。これからも、学んだ方法をより深めながら、自分自身を創っていってください。関わりながら自立してください。イシス編集学校で学んだ編集力をもって、ぜひ生きる日々の編集を続けてください。そして未来に向かって、私たちと一緒に、編集学校を創っていってください。

プロフィール

1952年、横浜市生まれ。法政大学大学院博士課程(日本文学専攻)修了。法政大学社会学部教授、学部長、法政大学総長を歴任。専門は日本近世文化・アジア比較文化。『江戸の想像力』(ちくま文庫)で芸術選奨文部大臣新人賞、『江戸百夢』(朝日新聞社、ちくま文庫)で芸術選奨文部科学大臣賞、サントリー学芸賞受賞。2005年、紫綬褒章受賞。朝日新聞書評委員、毎日新聞書評委員などを歴任。「サンデーモーニング」(TBS)のコメンテーターなども務める。江戸時代の価値観、視点、持続可能社会のシステムから、現代の問題に言及することも多い。松岡正剛と35年来の交流があり、自らイシス編集学校の[守][破][離]コースを受講、修了している。基本コース[守]の特別講義「田中優子の編集宣言」に講師として登壇。ビジネス・パーソンを対象としたハイパー・エディティング・プラットフォーム[AIDA]でボードメンバーを務める。



┃田中優子学長 関連情報
田中優子が語るイシス編集学校の魅力とは?

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【田中優子の編集宣言】必要なのは編集力 自由への方法を獲得せよ(遊刊エディスト)

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学長就任にあたって

イシス編集学校は、インターネット上で24時間いつでもどこでも「編集術」を学べる学校として、2000年に開校、2024年には25周年を迎えました。

編集者・松岡正剛を校長とし、松岡が蓄積してきた長年の編集メソッドをもとに、誰もが発想力・企画力・表現力などを身につけられるように開発した汎用プログラムで構成されています。学び手は「守」「破」「離」と段階的に進むカリキュラムを通じて、情報の収集から表現に至るまでの「編集力」を養います。松岡が提唱してきた「方法の知」を基盤に、現代社会の課題解決に向けた革新的なアプローチを提供しています。(参考:編集とは

田中優子学長は、江戸文化研究の第一人者であり、2014年度から2020年度には法政大学総長を務め、これからに有効な学習環境や教育の在り方を常に探求・提唱してきました。1980年代から松岡正剛との交流があり、総長時代には、大学でのビジョン策定後、入試改革のさなかに、新たな基準による能力(思考力・判断力・表現力・主体性)獲得方法を考えるため、イシス編集学校の基本コース[守]を受講。その後も、応用コース[破]、世界読書奥義伝[離]をすべて受講、修了し、自ら学校システムを体験しています。そうしたイシス編集学校の経験値も踏まえ、田中自身の研究者・教育者としての豊富な知見を、イシス編集学校のさらなる進化にもたらしていくべく、この度学長に就任しました。

校長である松岡正剛は、2024年8月12日に逝去いたしました。この度の学長就任においては、松岡自身からのたっての希望により、松岡の生前に内定しておりました。

田中学長は、2024年4月より、イシス編集学校のアドバイザリー・ボードである「ISIS Co-mission」に就任しました。今後は、他8名のISIS Co-missionメンバーとともに、編集学校スタッフ、指導陣と連携しながら、新たなイシス編集学校のプログラムの開発や質の向上、イシス編集学校が寄与しうる編集の社会的貢献において、検討・実践を進めていきます。また、学長から見た編集工学の魅力を広く伝えるべく、定期的な学長通信などを予定しています。